ある法律家の徒然日記

法律家がキャリア、書籍とか思ったことをつらつら書き連ねるブログです

【キャリア】アソシエイトが事務所に求めるもの

このまま弁護士としての経験を重ねてくると、徐々に若手の頃の考えが消えていきそうな気がするので、今のうちに備忘としてまとめておきたいと思います。

今回は(?)、「アソシエイトが事務所に求めるもの」について書いてみます。

 

1.仕事内容

なんといっても、自分がやりたいと思える分野の仕事ができるかどうかというところが一番重要なのではないかと思います。

ジュニアな弁護士だと、自分が「何をやりたいか」がよくわかっていないため、幅広くできる環境を望む人が多いのではないかと思います。あとは、これができれば潰しがきくのではないかと思われる分野を頑張るということもあるかもしれません。

他方、シニアアソシエイトだと、ある程度自分はこういうことをやりたいということが見えてくるように思うので、その分野ができるかどうかが判断ポイントになると思います。

ただ、やりたいことを見つけることは難しいので、やりたいことがわからないという人も多いのではないかと思います。むしろ、やりたいことを見つけるために転職するということもあるように思います。また、やりたくないことをやらなくてもいいというような選択をすることも合理性があると思います。

私は、企業法務と渉外法務がやりたいというかなり荒い解像度の希望しかなく、具体的にどの分野に注力していくのかというのはよくわかっていなかったです。他方、一般民事・刑事はやりたくないと思っていたので、事務所選びのときには一定のスクリーニングを果たしてくれたように思います。

 

2.人間関係

(1)ストレスがかかりそうか

長く仕事をするため、コミュニケーションにストレスがかからないということは非常に重要だと思います。特にストレスのかかりやすい仕事であるため、この点は、慎重に判断する必要があります。

パートナーは「外の顔」と「内の顔」と別の顔を持っているのが普通だと思うので、面接のときに「素晴らしい人格者だ!」と思い込みすぎないことが重要な気がします。

パートナーだけではなく、アソシエイトなど同僚となりうる人たちの人間性も見ていくことが重要な気がします。

また、定着率についても確認するとよいように思います。事務所HPを持っている場合には、過去の弁護士の推移を確認するとよさそうです。

 

(2)成長につながるか
法律家は、一般的な社会人より、成長できることを重視している人が多いように思います。なので、「この環境が自分の成長につながるか?」ということをよく考えていると思います。

成長につながるためには、「仕事の質✕指導の質」だと思うので、指導を期待できる環境かどうかが重要になると思います。もちろん、シニアアソシエイトの場合はもっと裁量を持ちたいという場合もありそうなのです。ただ、その場合でも適度な指導は必要なはずなので、その指導の質というのは重要だと思います。

(個人的には、指導者が意味不明なことを言うと非常にストレスに感じるので、この点は結構重要度が高いようでした。。)

 

(3)キャリアが見えるか

今後のキャリアが見える事務所かどうかということも重要だと思います。事務所に在籍し続ける場合は、パートナーになる可能性があるかということだと思います。最近の五大事務所などでは、上がつまっているので、自分がパートナーになれるかどうか不安というような声を聞いたりします。

そういう意味ではパートナーを頂点とするピラミッド構造が一番理想のように思いますが、パートナーばっかりの事務所の成功例もいくつかあるように思います。

またパートナーになれない、なろうと思わない場合でも、思い描くキャリアパスに近づけるかどうかというところも重要だと思います。

 

3.条件

(1)報酬

単純に報酬がいくらなのかというのは極めて重要な要素になると思います。

さらに細かく見ると、弁護士会費の負担、個人事業主扱いか労働者扱いなのか、書籍購入費補助なども考慮していくことになると思います。(ただ、私はこのあたりはそこまで重視していませんでした。)

 

(2)個人受任の取り扱い

個人受任が可能かどうかというのは重要な要素だと思います。これは、単純に報酬の面からインセンティブがありますし、自分を頼ってくれる人のために仕事ができるというのは単純に心理的な満足度が高いように思います(また、パートナーになって仕事を獲得する練習になるという側面もありそうです)。

個人受任は原則禁止とする事務所もあると思いますし、個人受任は全く制限ないという事務所もあると思います。個人受任ができるとしても、上納金として事務所にある程度(30%くらいが多そうですかね?)支払うという条件のところが多いように思います。

個人的には、個人受任が認められる方向に進んでいくのではないかと思っています。

 

(3)その他の条件

労働時間がどれくらいかというところも非常に重要だと思います。早く帰れるのか、終電くらいになるのか、終電も難しいのかというところや、土日はどうなのかという情報は、プライベート時間がどうなるかを判断する上では、必要不可欠な情報になると思います。

最近はリモートワークができるかどうかもポイントになるように思います。まだまだリモートワークが可能という事務所は多くないように思いますが、リモートワークを好む弁護士はリモートワークがない事務所には移籍できないのではないかと思います。

また、執務スペースの環境もポイントになる気がします。リサーチツールがどれくらいあるか、書籍はどの程度あるか、机はどれくらい大きいか、荷物はどれくらい置けるか、椅子は何を使っているか、通路は広いかというところは、こだわりのある弁護士もいるように思います。

 

4.事務所のブランド

色々な特徴を持った事務所があるように思います。「五大事務所」「外資系事務所」「老舗事務所」「新興系事務所」「会計系事務所」「ブティック系事務所」とかがあるように思います。

特に最近ではリーガルテック企業と提携している事務所が注目されているような感じがします。うまく提携していればシナジーが出そうですが、どちらかというと、リーガルテック企業のセールスポイントとして、法律事務所と提携していますという感じになっているような気がします。

 

また、事務所が成長しているかというところも大きなところだと思います。どんどん人が増えているということだと、やはり安心するように思います。

 

5.最後に

以上のとおり色々見てきましたが、大きな法律事務所以外であれば、ある程度交渉で決めれる部分もあるような気がしました。

とはいえ、完全に認めてもらうのは難しいところもあるので、どこまでなら譲歩できるかというところを決めるしかないように思います。

【書評】「転職一年目の教科書」

1.はじめに

転職の話をしていたときに、知人から転職するならこの本を読んでおくとよいよと紹介されたのが「転職一年目の教科書」です。

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2.感想

一番最初に感じたことは、「結構リアルなことも書いてあるな」でした。転職者に妙に優しい人はちょっと注意したほうがいいとか、入社初日に席がない場合があるとかは、なんかわかる気がしました。

 

転職者が気をつけるべきポイントが具体的に書いてあって参考になるなと思いました。

例えば、以下のようなポイントは特になるほどなと思いました。

 

  • 人間関係や他の部門との関係とかは複雑なところがあるので、慎重になるとよい。社内サークルや飲み会のような非公式のコミュニケーションが大事。
  • 業界の用語などは早く覚えることが大事。わからない言葉はすぐ調べる。会社に関する数字も覚えておくとよい。
  • 違和感を覚えることはメモしておく。あとで見返すと理解できることも多い。理解できないところは改善のチャンスになるかもしれない。
  • 最初の1ヶ月は疲れやすい。ストレスは3ヶ月くらいまで貯まりやすいので、適度に息抜きして、リフレッシュしていくことが大切。
  • 最初のうちは大きな成果よりも、小さな実績を積み重ねることが大切
  • 業界が変わるよりも、業界ナンバー1とナンバー3の方がカルチャーが違ったりする
  • 「そんなに簡単なものじゃない」、「君は素人だからそんなことが言えるんだ」と言われる場合は、相手の痛いところをついている可能性が高い。
  • 失敗したときは早めに上司に相談することが大切。

 

3.まとめ

結局は、会社に期待しすぎないことと、一つ一つ丁寧に仕事をやっていくのに尽きるなと思いました。

ただ、陥りやすい罠を避けるためには、この本に書いていることはすごく参考になりそうだなと思いました。

【書評】「英語は10000時間でモノになる」

1.はじめに

英語については勉強をしっかりしたいなと思いつつも、なかなか難しいですね。。最近は特に学習時間が確保できていませんでした。。

そこで、「英語は10000時間でモノになる」という本を勧める口コミを目にしたことから、改めて勉強するきっかけになればと思って手に取ってみました。


 

 

英語学習は結局頑張るしかないと思っているので、「10000時間」は必要というタイトルから、小手先のテクニックではなく、本当に必要なことが書かれているのではという期待を持って読みました。

 

2.感想

この著者ももともと帰国子女でもないし、海外留学などもしていない中、ある程度年齢を重ねてから英語学習を本格化したということで、とても共感?を覚えました。

 

(1)読書のススメ

具体的な方法としては、読書を強く勧めていました。特に、小説は前提知識などではカバーできず、ちゃんと読む必要があるため、力がつくということでした。また、ノンフィクションの場合は簡単にまとめた本と、しっかり書かれた本を同時に読むことで理解を深めることができるといった具体的な方法を提案していました。

本の選び方など、実用的な情報もたくさんあったので、色々と参考になるところも多かったです(Goodreads、Quillbotなど)。

読書を勧めているのは、著者が読書が好きだからということも多く影響しているからなのかなと思いました。

 

(2)英語の時間を増やすのではなくて、日本語の時間を減らす

英語を使う時間を増やすのではなく、日本語の時間を減らすと考えることを主張されていました。確かに、英語を使う時間を確保するのはなかなか難しいところですが、日本語でやっていることを英語にできれば、それができるということです。

具体的には、携帯の設定を英語にしたりすることが書かれていました。ただ、携帯の設定を英語にしたこともありますが、あまり意味を感じなかったので、もっと違うことで何かチャレンジしてみたいなと思いました。

 

(3)完璧を目指すことをやめる

完璧を目指すのを諦めて、先に進み、楽しむことを重視することも主張されていました。

多読の学習法などでも言われていることだと思います。完璧を目指すのは非常に大変ですし、量をこなすためには、ある程度の割り切りがあったほうがいいのかなと思います。もちろん精読が求められる場面もありますが、学習段階においては、精読を意識しすぎるのはあまり良くないのではないかと思いました。

 

3.おわりに

個人的にはこの本が書いていることをそのままやるのは難しそうだと思いました。具体的には読書(特に小説)を取る時間が難しいうえ、英語学習の目的は仕事で使える英語力なので、もう少し直接的に仕事に直結するようなニュースを読んだりする方がいいのかなと思ったからです。

ただ、英語にふれる時間を増やすこと(日本語を減らすこと)興味のあることに取り組むこと完璧をやめることはどの英語学習でも重要になるはずなので、これは意識して取り組むとよさそうだなと思った。

なので、私としては、興味のあることとしては海外ニュースとかはちゃんと読んでいくようにしたいと思いました。

 

【キャリア】データ法務はとっつきにくい?

データの利活用は社会で広まってきており、それに伴いデータに関する法務のニーズも高まっているように思います。ただ、まだまだ過渡期だと思われますし、また、苦手とする法律家も多い気がします。今回は、データ法務とは何か、その特徴などについてまとめてみたいと思います。

 

1.データ法務って何?

最初にデータに関する法務としてはどういうものがあるのかについてまとめてみます。

 

(1)個人情報保護法

一番わかりやすいのは個人情報保護法だと思います。個人情報を含んだデータは色々な場面で出てきますが、そのようなデータを取り扱う場合には個人情報保護法の対応が必要となります。具体的には、プライバシーポリシーを準備し、また第三者提供などの同意取得の対応を行うことがあります。

なお、アプリやWebサイトは日本だけではなくて、海外でも利用可能とすることが容易です。そのため、日本の個人情報のみならず、海外の個人データ保護法制についても検討が必要となる場面が少なくありません。特に、EUの法制度であるGDPRの重要さは、法律家でなくても、多くの人が聞いたことあるのではないかと思います。

 

(2)データに関する契約

データには所有権のような排他的な権限がないため、データを使わせてもらうためには、利用権を設定してもらう必要があります。どのようなデータを、どのような目的で、どのように取り扱うことができるのかを契約に明確に記載する必要があるため、法務がきちんとチェックする必要があります。

 

(3)その他

最近だと、AIガバナンスに対するアドバイスも多くなっている気がします。AIを生成する段階のみならず、利用段階でも個人情報や機密情報を取り扱うため、個人情報保護法への対応も必要となります。加えて、AI固有の問題として、バイアスの問題があったりするので、そのバイアスへの対応としてAIガバナンスが必要となるとされています。

他にも、データセットについては著作物となる可能性もありますし、不正競争防止法なども考慮する場面があります。最近では、Cookie対応が必要となった電気通信事業法の改正(外部送信規律)への対応などもありました。

 

2.データ法務の特徴

データ法務については、苦手意識を持っている法律家も多くいるように思います。データ法務の特徴が、一部の法律家にとってはとっつきにくく感じさせてしまうように思います。そのため、データ法務がその他の法務とどう違うのかについてまとめてみます。

 

(1)技術理解が必要

私自身は、技術への理解に難しさを感じることが多いです(面白さでもあると思います。)。「データを使ってこういうことをやりたいんです」と相談されたとき、法的に検討しようとすると、そもそもどういうデータを、どういう目的で、どういうフローで、どのように使っているのかを理解しないといけないのですが、正確に理解するためには技術についてもある程度知っている必要があります。

例えば、Cookie対応をしようとしたときに、Cookieとは何か?みたいなところも理解が必要となります。

もちろん、データ法務以外でもビジネスを理解したり、自社技術などへの理解が必要になることはあります。ただ、特にデータに関する技術はどんどん進歩しているので、キャッチアップが大変ということがあります。

技術の理解が大変であることに加えて、素早い変化に追いついていく必要があるということに苦手意識を覚える人がいるのではないかと思います。

 

(2)条文がよくわからない

見慣れぬ法律はすべてこのように感じるところはありますが、個人情報保護法はあいまいなものが多いように思います。

例えば、「違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない」(個人情報保護法19条)とかはわかるようなわからないような感じがします。また、外国にある第三者への提供(個人情報保護法28条)については、ちゃんと読めば分かりますが、結局どうすれば外国にある第三者に提供できるのかを初見で理解することは難しいのではないでしょうか。

さらに、クラウドサービスのときなど原則からすると少し外れるようなQ&Aがあったりするので、混乱する罠はたくさんあるように思います。

 

(3)クロスボーダーでの展開が多い

また、データという性質上、簡単に国を超えて移転することが可能となるため、クロスボーダーでの対応が求められやすいというところもあると思います。また、各国の法制度についても、事例の蓄積がないところも多いので、GDPRなど他国の動向を参考に検討していくことも多くあります。

そのため、現地の弁護士に聞いたとしても回答が難しいところがあります。最終的にどういう落とし所にするのかは、現地の法令だけではなく、世界的な潮流なども考慮する必要があるため、特有の難しさがあるように思います。

 

3.データ法務の今後

(1)EUの動向

今後の留意点としては、やはりEUが議論しているルールの動向に注意が必要になると思います。EUでは、AI Act、Data Act、Data Service Actなどデータに関する法令制定に向けた議論が進んでいます。GDPRのように制裁金が大きい可能性がありますし、世界的に同種の規制が広がる可能性があるからです。

個人的には、個人データではないデータについても対象とされるData Actはインパクトが大きくなる可能性があるように思います。今のデータ法務では個人データを対象とした対応が多いのですが、今後非個人データに対しても規制がなされることになると、対応しないといけないデータの数が倍以上になる可能性があると思われるからです。

 

(2)データ法務のキャリア

データ法務のキャリアについても今後どうなっていくのか気になります。GDPRでは、一定の場合、DPOというデータ保護責任者を選任する必要があります。日本では法令上直接義務付ける規定はありませんが、データプライバシー保護のためにそのような責任者を設けることは広がっていく可能性があります。

他方、データに関するポジションとしては、他にもCIO(Chief Information Officer)、CISO(Chief Information Security Officer)、CDO(Chief Digital Officer)などがあり、これらの関係がどう整理され、法務人材はどういうキャリアになるのかというところは個人的に関心があります(個人的にはプライバシー対応がメインとなるDPOが主軸になると思いますが、プライバシー対応を踏まえて、データ利活用が求められるCDO/CIOなどへのキャリアを歩む人が増えてもよいのではと思っています。)。

 

4.おわりに

以上のように、データ法務はまだまだ流動的で、今後も様々な変化があるのではないかと思います。

日本の個人情報保護法も3年ごとに見直しが予定されていますし、また、GDPRは自己決定権を根拠として同意を重要視していますが、本当に同意が意味があるのかというところは議論があるところです(プライバシーポリシーを読んで同意をしている人はどれくらいいるんですかねという純粋な疑問はありますよね。)。

そのため、まだまだ可能性を秘めた分野ではあると思いますので、興味がある人はチャレンジする価値はあるのではないかと思います。

 

【キャリア】クロスボーダー案件での日本弁護士の役割

クロスボーダーの案件をやると、「日本法の弁護士としてどういう価値を提供できるのか?」という悩みを持つことが多いのではないかと思います。私も同じ悩みを持ちましたし、より年次の若い弁護士から同じ悩みを聞くこともあります。

そのため、クロスボーダー案件で日本弁護士は何を求められているのかということについてまとめてみたいと思います。

 

1.クロスボーダー法務とは

クロスボーダー法務は、大きく分けて「インバウンド法務」と「アウトバウンド法務」があります。

「インバウンド法務」は海外から日本の法制度に関する依頼を受けるもので、「アウトバウンド法務」は日本から海外の法制度に関して依頼をするものです。つまりインバウンド法務は基本的には、対象は日本法で、言語は英語となります。他方、アウトバウンド法務は外国法を対象として、言語は英語になることが多いと思います。なので、インバウンド法務とアウトバウンド法務では、対象が日本法か、外国法かというところが大きな違いとなります。

そのため、アウトバウンド法務において、日本の法律を勉強してきた日本法の弁護士がどういう価値を提供するかで悩む人が多いように思います。

なお、インバウンド法務は日本法を英語で実施するため、これをやりたいと考える若手弁護士も多いかもしれません。ただ、インバウンド法務が継続してあるのは主には外資系事務所・企業であるため、そういう環境を選ぶ必要があります。

 

2.アウトバウンド法務で日本法弁護士がすべきこと

アウトバウンド法務の場合、基本的には海外の法制度の確認が必要となります。日本法の弁護士は海外の法制度という点では海外弁護士には敵いません(当然ですね)。そのため、海外弁護士のアウトプットが必要となります。そうなると、日本法の弁護士にはどのような価値があるのでしょうか。

 

(1)論点整理力

まずは、何を海外弁護士に確認すべきかという論点を整理する価値があると思います。広く、「こういうことをやりたいけど法的問題ある?」と聞いてしまうと、無駄なリサーチが幅広く実施されてしまい、すごい費用になるというリスクがあります。そのため、特に確認すべき事項を、日本側で整理してあげると、現地弁護士のリソースを適切に振り分けることができ、結果として成果物の質を高めつつも、費用を削減することができます。

 

(2)質問力

質問力も重要です。「これってできる?」みたいなオープンクエスチョンだけだと、うまく海外弁護士から回答が引き出せない可能性があります。そのため、適宜前提条件やクライアントの意向を必要な範囲で共有したり、場合によってはクローズドな質問を活用することで、回答の方向を誘導し、海外弁護士からの回答が適切に得られることが期待できます。

また、海外の法令の知識がある程度ある場合には、内容についてもある程度確認することができ、回答の質を高めることに繋がります。

 

(3)信頼できる海外弁護士の紹介

次に、優秀な海外弁護士を見つけること、紹介することに価値があります。日本法の弁護士であっても、どういう人を選べばいいのか迷うことがあると思います。ましてや、海外の弁護士と交流したことがある人はかなりの少数だと思います。そのため、信用できる海外の弁護士を紹介できること自体に価値があると思います。一緒に仕事をしたことがあったりすれば、仕事のクオリティを高めるために、どういうコミュニケーションを取った方がよいかなども併せてアドバイスでき、より質を高めることに繋がると思います。

 

(4)複数国の統一的な対応

さらに、クロスボーダーといっても、対象国が複数の場合には、ただ各国の弁護士から回答を得るだけでは最終的な成果物とならない場合があります。例えば、各国の個人情報保護法を踏まえた、プライバシーポリシーを作る場合、ある程度共通事項を対応することが必要になります。

そのため、海外弁護士から回答を得るだけではなく、それらを統合する作業においては、各国の制度をある程度理解したクロスボーダーでの弁護士がやることに意味があります。

 

(5)現地弁護士の代替

そもそも海外の法制度について、ある程度知っているという場合もあるかもしれません。その場合には、海外弁護士に質問しないということも選択肢として考えられ、海外弁護士への支払いを削減でき、またスピーディーに回答できるというメリットがあります(どこまで責任をとって回答するのかというところは難しいところですね。。弁護士の責任回避という観点からは全部海外弁護士に質問するのがいいですが、クライアントがどこまでの情報を求めているのかによっては、海外弁護士に質問しないということも選択肢としてはあってもよいと思います。)。

 

(6)まとめ(日本の弁護士が必要な場面、不必要な場面)

以上のように、難易度の高い質問を行う場合などの質の高いアウトプットが必要となる場合や、複数国を対象とする場合には、日本法の弁護士に介在してもらうことがよいように思います。

あと、単純に英語力に問題がある場合なども、英語力の高い弁護士にお願いするのがいいと思います。

反対に、簡単な質問であって、現地弁護士が誰であっても一定程度のクオリティが保たれうるものである場合には、日本法の弁護士は介在させないことが、迅速かつ低コストになると思います。

 

3.クロスボーダー法務の特徴

クロスボーダー法務やりたいと思う人も多い気がするので、少しだけ、クロスボーダー法務の特徴(というかネガティブ面?)についても書いてみます。

特にアウトバウンドの場合、日本側が時間をかけてしまうと、さらに海外弁護士の検討時間が必要となるので、コミュニケーションはなるべくタイムリーに対応する必要があります(ちょっと追加で質問を受けたときに、時間がかかってしまうと、最終成果物提供も後ろ倒しになってしまいます)。なので、常に連絡が取れる状況を保つことが望ましいことになります。

また、時差の関係も考慮して動く必要があります(アメリカが入ると、なぜか日本が割を食らうことが多いようです。。)。あとは、祝日が日本とずれている場合があったりするので、そのあたりも加味してタイムラインを設定する必要があったりします(アジアだと旧正月があることは広く知られているように思いますが、そのタイミングは各国でちょっとズレていたりします。欧米はクリスマス以降はほとんど動かないみたいなところもあります。)。

 

4.今後のクロスボーダー法務

少し今後どうなっていくかみたいなところも考えてみたいと思います。

(1)まずは、翻訳技術が向上することは大きな影響がありそうです。ただ、現地法令が正確に訳されれるかや、訳は正しくても、もっと背後の知識が必要になるなどの部分はあるはずなので、最終的には人が確認しないといけないことは多いように思います。ただ、コスト削減には寄与するように思います。

 

(2)また、クロスボーダーの場合には、主な言語が英語となるため、日本人がどこまで対応するのかというところも今後変化が生じる可能性がありそうです。つまり、日本法であれば日本人弁護士の優位性はありますが、外国法となってしまうと、日本人VSアメリカ人みたいな戦いになるので、日本人がどこまで価値を提供できるかというところがあります。日本企業が世界展開に積極的であれば、日本企業の事がわかる日本弁護士がサポートすることは意味がありますが、そこまで積極的になれない状況の場合には、どうなるのかは色々と複雑になると思います。

加えて、インドとかの人件費が安いところで、簡単な英文契約書のドラフト・レビューをしてしまうということもあるようなので、そういう環境を整えた事務所とどう勝負するかがポイントになりそうです。(そういう海外弁護士を活用する場合、時差をうまく活用できるかが重要になりそうです。また、アメリカの場合には、人件費が安い州の弁護士を、NYの法律事務所が起用するということもあると聞いたことがあります。)

 

【キャリア】法律事務所の弁護士とインハウスの違い(ステレオタイプ編)

今回は法律事務所の弁護士とインハウスの違いについて整理してみたいと思います。

ただ、私はインハウスになったことはないので、インハウスの方はよく聞く話などをまとめる感じになります。インハウスになったときには、また改めて違いがあったのか書いてみたいと思います。

なお、一応断っておきたいと思いますが、法律事務所の弁護士とインハウスの弁護士はどっちが上とか、どっちかが優れているというようなことは全く無いと考えています。果たすべき役割が違うだけなので、法律事務所の弁護士の方が向いている人もいれば、インハウスが向いている人もいるというだけの話だと思っています。

 

1.業務内容

(1)求められる法的知見

法律事務所の弁護士の方がより純粋に法律の知見・意見(と関連する経験)を求められることが多いと思います。これに対して、インハウスではもっといろんな業務が求められ、必ずしも法律に関連しない業務も多いということだと思います(雑務や総務みたいなところもやることで、これは私がやりたかったことなのか・・・?みたいなギャップが生まれやすいところではないかと思っています。)。

また、インハウスは問題を見落としてしまうと、そのまま誰にも指摘されない可能性があります。そのため、インハウスは問題にきちんと気づく能力が必要となり、(浅くても)広い範囲をカバーする必要があります。他方、外部弁護士は広く知っていなくても、一つの分野で圧倒的な知見があれば、それだけで仕事はできるように思います(ある程度業務範囲を絞るということは外部弁護士ではよくある戦略だと思います。)。

 

(2)事業判断との距離

外部の弁護士の場合、法的リスクを指摘した上で、最終的にはビジネス判断ですという形が多いと思います(外部弁護士はビジネス判断も含めたアドバイスを行うべきかという議論はよく聞くところではあります。個人的には、法律家は事業のプロではないので、法律の意見を客観的に提供することがよいのではと考えています。)。

他方、インハウスの場合には、ビジネス判断ですといって事業部にある程度任せる部分はあると思いますが、ビジネス判断に必要な要素などをもう少し踏み込んで伝えることが求められるのかなと思います(ここは理想論なのかもしれませんね。よくない法務部の例として、責任を事業部に押し付けようとするというものを聞いたことがあるので。。)。

 

(3)チームワーク

法律事務所の場合、仕事を一緒にするのは同僚の弁護士になるため、ある程度共通認識を持ちやすいように思います。そのため、独立して業務遂行しやすいように思います。例えば、DDとかでも、一定の内容に分けて役割分担することができるように思います。

他方、インハウスの場合、一緒に仕事をする人が法務部だけではなく、事業部のこともあるため、お互いに正しく理解し合うためには少し時間をかけてやりとりする必要があるように思います。

そのため、インハウスの方がよりチームで作業することが増えるのではないかと思います。

 

2.忙しさ

これは外部弁護士の方が忙しいということで異論はあまりないのではないかと思います。インハウスの場合、基本的には労働者となるため、残業が制限されることが多いからなのではないかと思います。どちらかというとインハウスは決まった時間で一定の成果を出すことが求められ、外部弁護士は時間にかかわらず基準を満たす成果を出すことが求められることなんだと思います。

また、一般的には弁護士の場合は稼働が増えれば、それに応じて請求金額が増えることになります。人件費が大きなコストになるため、ある程度少ない人数で、強引に乗り切った方が利益率が良くなるという構造もあり、多くの事務所では人が足りているというよりは、人が足りない状態が慢性化しているように思います。

また企業法務をメインにやっている外部弁護士の場合にはタイムリーなレスポンスが重要になるため、暇なときであっても、完全に気が抜けないという側面もあるように思います。

ただ、平日の途中でちょっと抜けるということは外部弁護士だと簡単ですが、インハウスだとなかなか難しいように思います。なので、しっかり休むのはインハウスのほうが良さそうですが、数時間ちょっと抜けるというようなことは外部弁護士のほうがやりやすいという違いはありそうです。

 

3.報酬

一般的にインハウスよりも、外部弁護士の方が報酬は高いと思います。これはインハウスの場合、稼働(労働時間)が少なくなることや、他の従業員との関係で定まった給与水準となることなどが原因にあると思います。

加えて、外部弁護士の場合、法律業務は利益に直結しますが、インハウスの場合は業務が利益を生むものではないというところがあります(法務は、「バックオフィス」「コストセクション」などと言われることがあります)。

他方、外部事務所において、利益をあげられない弁護士は法律事務所では難しい状況になると思います。インハウスに移る大きな理由の一つには、売上のプレッシャーからの解放というものがあると思います。

 

4.条件面・環境面

福利厚生がしっかりしているということはインハウスの強みだと思います。色んな差異はあると思いますが、年間に有給を最低5日は取得しないといけないところや、健康診断の義務が課されたりしているところは、意外と大きな違いなのではないかと思いました(育休・産休とかの制度とかも大きいところかもしれません。)。

あとは、インハウスの場合は定年があるため、60歳や65歳以降をどう過ごすのかというところを考える必要があると思います。法律事務所は定年を設けていないところが多いように思いますが、一定の規模のある事務所や外資系などでは定年を設けているところもあると思います。また、法律事務所であっても、中村直人先生が新たに事務所を立ち上げられた例があったりします。

ただ、法律書籍やツールなどに関しては、インハウスではあまり利用できないというようなマイナスの部分もあるように思います。

 

5.個人的感想

個人的な推測ですが、外部弁護士からインハウスに移るときの背景としては「ワークライフバランス」、「売上プレッシャーからの解放」あたりが多いのかなと思っています。

他方、インハウスから外部弁護士に移るときは「法務の知見を高めたい」というところが大きいように思います。

昔は、ある程度の年次を過ぎると外部弁護士とインハウスの間の移籍は難しいという話があったと思います。ただ最近はインハウスの経験を活かして外部弁護士として活躍している先生もいるので、垣根がだんだん無くなってきているのではないかと思います。

法務人材は流動性が高いので、いろんなキャリアで、いろんなルートで活躍される弁護士が増えるといいなと思っています。

【書評】「限りある時間の使い方」

最近読んだ本についても簡単に記録していきたいと思います。

 

1.概要

「限りある時間の使い方」という本を読みました。

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ネットでこの本のことをすごく評価している人がいたので、自分の時間の使い方の参考になればと思い、手に取ってみました。

 

特に印象だったのは、以下のあたりです。

「ホフスタッターの法則:どんな仕事であれ、つねに時間は予想以上にかかるものであるーたとえホフスタッターの法則を計算にいれてもだ。」

(仕事は時間がある限り膨張するというような話と同じですね。)

 

周りの人と同時に休むことで幸福度が上がる。

(そういう意味では祝日の多い日本は幸福度が比較的高いということになりそうですね。)

 

仕事のための余暇ではなく、人生を豊かにするための余暇である

(結局効率化を図って、より多くの仕事をするというのはおかしいのではという疑問だと理解しました。)

 

時間は私を構成する実体である。

(これは、時間をコントロールしようとする考え自体、自分自身をコントロールしようとするもので、無理なのではという問題提起という理解です。)

 

2.感想

感想としては、よくある話で、あんまり新しい発見はないかなと思いました。

一番重要なポイントは、「できることは有限で、何かに集中すべきである」ということであって、これは「エッセンシャル思考」で書かれていたとおりなのかなと思いました。

というか、結局時間をいかに使うかというテーマは、自分がやるべきことを優先順位をつけてやっていこうということに尽きる気がするので、あまり本を読んでも仕方ないということなのかもしれないなと思いました(身も蓋もないですね)。