ある法律家の徒然日記

法律家がキャリア、書籍とか思ったことをつらつら書き連ねるブログです

【キャリア】M&A法務ってやっぱり人気?

私はM&Aを中心にやっていた時期もありますし、M&Aをやってみたいと思う人も少なく内容に思うので、簡単にM&Aの法務についての雑感をまとめたいと思います。

 

1.M&A法務とは

(1)M&A法務の業務内容

基本的にM&A法務は、M&Aに関する法務を広く指している言葉だと思います。主な内容としては、「法務デューデリジェンス(DD)」と「契約(株式譲渡契約(SPA)や合併契約など)のドラフトやレビュー」があります。

M&Aの一番最初には「基本合意書」を締結することになりますが、ここはあまり外部の弁護士にお願いすることは多くはないような気がします。

あと、合併後の「経営統合のプロセス(PMI)」においても法務の問題が出ることがたくさんあります(就業規則などの統合とか)。ただ、この辺りは日々の法務業務ということで、M&Aを担当した事務所がそのままやることは多くない気がします。

 

(2)M&Aって何?

基本的にはM&Aのほとんどは株式譲渡だと思います。ニュースで見るような敵対的買収みたいなものは、M&Aの中では少ない部類だと思います(そして、対応できる事務所も四大クラスのように限られるように思います)。

企業買収=M&Aだと思いますが、個人的には、JV組成、出資、グループ内の組織再編とかと近い業務だと思うので、M&Aだけ切り出されて扱うのではなくて、まとめた用語があればいいのにと思っています(実はそういう言葉があるのかな?)。

 

2 M&A法務のメリット

(1)好景気でも不景気でもニーズはある

実際にM&Aをやって驚いたことですが、景気がよいときだけではなくて、景気が悪いときもM&Aがあることでした。これは経営上あまり上手くいっていない事業を切り出して、本業に専念するといった場面が結構あるからです。

なので、コロナのパンデミックの直後はさすがに案件が止まりましたが、少し経つと結構もとに戻った感覚がありました。

 

(2)M&Aのニーズが高まっている

(1)ともつながる部分だと思いますが、M&Aのニーズは高まっているような気がします。例えば、製薬業界などは新薬開発の難易度が上がっていることもあり、M&Aで足りない部分を補うということが多くなっているようです。

そのため、法務求人においても、多くの企業でM&Aの経験あることを優遇・歓迎するところが多いように感じました。

ただ、どこまでの企業がM&Aをやっているのかというのは少し気になりました(そんなM&A案件を常時抱えている企業は多くはないのでは?という疑問です。)。

 

(3)ポジティブな業務

M&Aは基本的に買い手としては新たな事業成長の機会になるため、ポジティブな仕事内容となります。そのため、案件の忙しさと相まって、終わったときはチームで一体感・達成感を感じることも多いです。

また、買い手としては今後利益の拡大が見込まれることもあり、報酬を比較的払ってもらいやすいのではという感じがします(もちろん、コンサルがもっと多く持っていくというところとの比較で、弁護士報酬は低く見えてしまうというところはあるかもしれません。。)。

 

3 M&A法務のデメリット

(1)タイムラインがタイト

M&A法務のデメリットはなんといってもタイムラインが厳しいことにあります。

基本的に、全体的なタイムラインが最初から決まっていることが多く、また、関係者も非常に多いため、タイムラインを遅らせるという選択肢がなかなか採れないことが多いです。

そのため、タイムラインに間に合わせるために、急がないといけない場面が非常に多いので、結構な頻度で全力疾走した気がします。

 

(2)コモディティ化してきている?

M&A法務に関する書籍も非常に充実してきたと思います。最近ではクロスボーダーM&Aに関する本も出てきており、やったことがない人でもある程度のレベルに達するのに多くの時間は必要ないのではないかという気がします。

言い換えると、M&A法務がコモディティ化してきているということだと思います。

加えて、DDだと広く会社のことを見ることになるので、深い専門性というものが身につくかという疑問がある気がします(SPAとかの落とし所の感覚とか、経験というものは重要になると思いますが、理論的な議論はある程度収束してきているような気がします。)。

そのため、M&A法務の見積もりは相見積もりを取って一番安いところとしても、大きく失敗することはないのかもしれません。そういう環境も相まって、なかなか見積もりで高めの金額を出すことが難しくなっているのではないかと感じました。

 

(3)クライアントとの継続した関係を築きにくい

個人的に意外とモヤモヤポイントだったのが、継続案件とはなりにくいこともあるので、なかなかクライアントとの距離を詰めきれないことが多いことでした。せっかくクライアント企業のことや、対象会社のことがわかってきたなと思ったら、そこで案件が終わってしまうということも少なくありませんでした。

 

4 M&A法務の今後

(1)AIの進歩

今後のM&A法務というところでは、一番影響がありそうなのはAIの進歩だと思います。

DDについてはAIがある程度できるのではないかと思います(実際に、そういうリーガルテックの会社がありますね。)。となると、特に外部弁護士が何をするのか分からなくなってきます。

外部の弁護士がM&Aをやらなくなるということまではいかない気がしますが、「DDにアソシエイトを複数動員するので、報酬はいくらです」というような、報酬の設定は難しくなって、弁護士報酬がもっと低くなる可能性は十分ありそうです。

 

(2)仲介業者の存在

以前議論されていたように、M&A仲介業者が売り手・買い手双方から報酬を得ていることは、検討されるべきだと思います。

弁護士も双方代理は基本的にできないのに、なぜ仲介業者は双方から報酬を貰えるのかというのは疑問があります。なので、規制する方向なのかなという気もしますが、不動産仲介も可能なので、規制に至らない可能性も十分ありそうです。

 

5.最後に

M&A法務はどこかキラキラした感じがあるのか、私も学生の頃は単純にやってみたいなと思ったりしていました。いざやってみると面白さはあるものの、タイムラインの厳しさと、コモディティ化してきている感覚もあり、あまり長くできないなという感想を持ちました(笑)

ただ、M&Aをやったことで、企業法務のどこをみるべきなのかといった全体的な知識を得ることができたと思うので、非常にやってよかったなと思っています(またもや過去を言い訳がましく肯定してしまっていますが。。)。

【キャリア】弁護士と税務案件

私の最初のキャリアは、Big4の税理士法人でした。

(キャリアの概要については、こちらもご参照ください。

はじめまして!(簡単な自己紹介編) - ある法律家の徒然日記

 

そこで感じた、弁護士が税務案件をやることについての意義みたいなものをまとめてみたいと思います。

 

1.税務をやろうと思った背景

最初に、私が税務をやろうと思った背景について説明しようと思います。

司法試験制度改革によって、弁護士の数が増えてきたことから、何かしら「弁護士としての武器」がほしいなと思っていました。

税務は司法試験の選択科目であるにも関わらず、授業を受ける人や、司法試験の選択科目として税法を選ぶ人が少ないなと思いました。

その理由を考えてみたところ、税務は数字を扱う必要があるため、文系の法律家との相性があまりよくないのではという仮説を持ちました。

また、税務サービスの結果として節税となれば、その分経済的メリットがクライアントにあり、法務以上に価値がわかりやすく、その分報酬も得られやすいのではということを考えました。

さらに、弁護士でも税理士でもちゃんと対応しきれていない分野があるのであれば、それは狙うべきマーケットなのではと思いました。

以上のようなことを考えて、税務分野を武器にできないかと考えました。

 

2.税務案件の難しさ

しかし、実際は、そんなに甘いものではありませんでした(そりゃそんな甘い話はありませんよね。。)

 

(1)数字を理解する力

難しさの理由としては、やはり数字に対する感覚というか、知見が欠けているところがありました。数字をきちんと理解できないと、結局のところ推奨すべきストラクチャーの判断ができません。海外の法制度を説明するだけなら、まだなんとかなりますが、数字が出てくると一気に難易度があがる感覚がありました。

 

(2)税制改正の多さ

また、税務は毎年税制改正が行われていることもあり、そこのキャッチアップが非常に大変でした(経験のある税理士は、むしろ、この改正をビジネスチャンスとしているところがあるのですが、ある程度基本が理解できていないと、ついていくことが大変でした。。)。

 

(3)ミスの明確さ

税務は定期的に税務署が調査に入ったりすることもあります。そこで、間違いがあった場合には、数字という客観的な形で指摘されてしまうことになります。そのため、間違いが法律よりも客観的に見えてしまいやすい怖さがあると思いました。

最近も、信託ストックオプションに関して、設計時の想定とは異なる課税関係になるということが指摘されて、相当大きな話題になっていたように思います。

 

3.税務案件における弁護士の提供価値

というような難しさがあり、税務をそのまま続けるかとキャリアについて悩んでいました。そこで、税務案件で、弁護士は何ができるのか考えてみました。

(1)税務訴訟・紛争

税務に関して弁護士が何ができるかというと、一番王道なのは、訴訟・紛争かなと思います。近年国税当局が負ける事案も少なくなくなってきていることもあり、ここの部分で勝負することもあるのかなと思いました。

幸運にも不服審判の案件をやることができましたが、これは税務の知見というよりは、訴訟の経験が重要なのではと感じました。訴訟はあくまで過去の事実関係をもとにするため、もともと幅広い税務の知見を有している必要性がどこまであるのかがよくわかりませんでした。

 

(2)税務調査・意見書

その次に、税務調査のサポート・意見書があるかなと思います。現在もこの分野に活路を見出そうとしている弁護士の先生方もいるように思います。これは、税務紛争の数が限られていることから、それよりも少し上流である税務調査をターゲットにしようとしていると思います。

これはどこまでニーズがあるのかちょっとよくわからないなと思いました。税務調査入るたびに意見書は作らないと思いますし、結構税理士も税務調査のサポートをしているので、彼らとの差別化をどう図っていくのかはよく分かりませんでした。

 

(3)税理士との能力・知見の違いから考えてみる

少し検討の視点を変えて、税理士の能力・知見と弁護士の能力・知見に違いがあるのであれば、その違いを活かして弁護士がやるとよさそうな領域がないかも検討してみました。*1

法律家はやはり条文を出発点に考える力があると思います*2。他方、税理士は数字を理解することが得意だと考えています。税法の解釈をギリギリ検討する必要がある場合には、法律家の検討がよさそうだと思います(紛争とか意見書はこの世界だと思います)。ただ、多くの場面ではそこまで厳密に考えることは多くないのではないかと思いました。特に日本企業は、悩んだ場合には保守的に運用するという選択が多いように思います。

なので、ストラクチャリングとかの場面では「法律家の知見」よりは、「税理士の知見」が必要になるのではないかと思いました。

 

(4)アメリカの事情を参考にしてみる

また税務をやっている弁護士というと、やはり参考になるのはアメリカではないかと思いました。ここはあまりうまく情報収集ができなかったのですが、聞ける範囲で色々と聞いてみたりしました。

アメリカで、スタータスが最も高い弁護士の一つはタックスローヤーと言われています。これは、アメリカの税法は非常に複雑になっていることに加えて、税理士のいないアメリカではそのような弁護士がストラクチャリングも行っているからという話を聞きました。

つまり、①クライアントの節税意識が高く、②それに対して弁護士がストラクチャリングのアドバイスを行っているという環境の話だと思いました。

日本について考えてみると、①節税意識については、税金を下げたいと考える企業よりは、「払う必要があるなら支払います」というようなスタンスの企業が多いように思いました。また、②ストラクチャリングは、弁護士ではなく税理士がやっています。

なので、日本とはちょっと違う環境が前提であることに留意しないといけないなと思いました。

 

4.(当時の)私の結論

以上のように色々と考えてきました。結論として、(1)税務をしっかりやって、税理士と同じレベルで議論ができるようになるか、(2)法律家として法律で勝負することのいずれかという選択肢になるのかなと思いました。

税理士としっかり勝負するには、相当時間をかけて基礎から学ぶ必要があると思いました。しかし、法律家になるのに相当時間かけていたのに、法律と税務の掛け算の結果が見えないまま、税務をまたずっと基礎から勉強することへの不安がありました。

なので、一度法務の実務経験を持ちたいということを考えました。

 

5.税務の経験はどこに行った?

一応最後に、「税務やっててよかったよ」ということを、言い訳がましく書いてみようと思います。

何と言っても税務の基礎的な知識が得られたというのは非常によかったと思います。例えば、契約を見ているときに、サービス対価に関連して、移転価格が問題にならないかな?というようなアンテナがあるので、必要に応じて税理士につないだりすることができます。あとは、税理士の説明もある程度理解できるということも重要なメリットかなと思います。

あと、本当に優秀な税理士と知り合うことができたことも良かったと思います。

 

以上のとおり、つれづれなるままに書き連ねてみました。

若手の弁護士、修習生、学生など、税務ってどうなのかなと思っている人もいるかなと思います*3。多少なりとも参考になればいいなと思いながら、筆を置きたいと思います。

 

 

*1:なお、念のためですが、税理士と弁護士でどっちが優秀というような考えはまったくありません。いずれも得意・不得意があるというだけで、協力体制を築くことが一番重要と思っています。このような補足をする背景には、純粋に税理士は能力が低く、弁護士の方が能力が高いと考えているような発言を聞くことがあったからです。しかし、優秀な税理士は非常に優秀です(パートナークラスに限らず、マネージャークラスでも非常に優秀な人が多かったです。)。パートナークラスだと、税務のみならず他分野への知見も十分持っていることも珍しくなかったです。このような資格だけで能力を評価する発言は非常に残念に思いましたので、補足させてもらいました。

*2:税法はほんとに読みにくいですね。。。個人的には金商法くらい苦手な法律です。。余談ですが、税法をやったことがあるというだけで、転職活動のときに評価してくれる人がいたくらいです。

*3:弁護士が税務やるということは、多くの人とは違うキャリアであることは認識した方がよいかなと思います。なので、やるならとことんやらないとだめだと思いますが、本気でやった人はそんなに多くないと思うので、開拓者になれる可能性もあると思います。

はじめまして!(簡単な自己紹介編)

はじめまして!

 

自分のアウトプットの場としてブログを始めてみることにしました。

「読んだ本」、「気になったニュース」とかつらつらと書いてみようかなと思っています。

 

「キャリア」についても色々書こうかなと思っていますので、自己紹介も兼ねて、私のキャリアについてざっくり説明してみようと思います。

 

関西にあるロースクールを卒業して、弁護士になりました。

 

最初のキャリアは税理士法人の国際部にいました。

「なんでまた税務?」という声が聞こえてきそうですね。弁護士としての武器がほしいなと思っていたときに、「英語」「税務」がその武器になるのではと思ったことがその理由でした。

主にアウトバウンドの税務をやっており、インドや中国といった税制についてアドバイスすることが多かったです。働き始めるまで税務はちゃんとやったことがなくて、さらには英語を使わないといけないということもあり非常に大変な日々でした。。

 

やや慣れてきたかなというときに、やはり法務の実務経験をちゃんと積んだ方がよさそうだなと思い、今度は同じグループにある弁護士法人に移ることにしました。

そこではM&Aが多く、非常に多くの時間をM&Aに使いました。他にも一般的な会社法関係、スタートアップ、クロスボーダー案件とかやっていました。

いかんせんM&Aが大変ということもあり、また、なんとなんくDDとかは価格競争になってきている感じがしたので、忙しいのに自分のキャリアがちゃんと形成されているのかという不安がありました。

 

そこで、また少し環境を変えることとして、小さめの企業法務系の法律事務所に移ることとしました(今もここです)。

ここでは、データ関係の仕事を中心にやっています。具体的には、個人情報保護法の関係の仕事や、AI関係の法務などです。最近は改正電気通信事業法(外部通信規律)の話しもありましたね。

 

ようやく、ふらふらしてたキャリアの軸としてデータがあるのでは?というような、感覚を持ちました。

なので、今後はデータ(と英語。。。)を中心にやっていきたいなと思っています。

 

簡単には以上のようなキャリアです。

今後のキャリアは全然よくわかっていないので、またふらふらするかもしれません。。

ただ、将来のキャリアを考えるときに、当時の自分が考えていたことは参考になるのではという気がしたので、記録としてもこのブログを活用してみたいなと思っています。

 

という感じで、思ったことをつれづれなるままに書き連ねていきたいなと思っています!

あんまり読者の皆さんに参考になることはないかもですが、自己満足なので、ご容赦いただければと思います。