ある法律家の徒然日記

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【キャリア】クロスボーダー案件での日本弁護士の役割

クロスボーダーの案件をやると、「日本法の弁護士としてどういう価値を提供できるのか?」という悩みを持つことが多いのではないかと思います。私も同じ悩みを持ちましたし、より年次の若い弁護士から同じ悩みを聞くこともあります。

そのため、クロスボーダー案件で日本弁護士は何を求められているのかということについてまとめてみたいと思います。

 

1.クロスボーダー法務とは

クロスボーダー法務は、大きく分けて「インバウンド法務」と「アウトバウンド法務」があります。

「インバウンド法務」は海外から日本の法制度に関する依頼を受けるもので、「アウトバウンド法務」は日本から海外の法制度に関して依頼をするものです。つまりインバウンド法務は基本的には、対象は日本法で、言語は英語となります。他方、アウトバウンド法務は外国法を対象として、言語は英語になることが多いと思います。なので、インバウンド法務とアウトバウンド法務では、対象が日本法か、外国法かというところが大きな違いとなります。

そのため、アウトバウンド法務において、日本の法律を勉強してきた日本法の弁護士がどういう価値を提供するかで悩む人が多いように思います。

なお、インバウンド法務は日本法を英語で実施するため、これをやりたいと考える若手弁護士も多いかもしれません。ただ、インバウンド法務が継続してあるのは主には外資系事務所・企業であるため、そういう環境を選ぶ必要があります。

 

2.アウトバウンド法務で日本法弁護士がすべきこと

アウトバウンド法務の場合、基本的には海外の法制度の確認が必要となります。日本法の弁護士は海外の法制度という点では海外弁護士には敵いません(当然ですね)。そのため、海外弁護士のアウトプットが必要となります。そうなると、日本法の弁護士にはどのような価値があるのでしょうか。

 

(1)論点整理力

まずは、何を海外弁護士に確認すべきかという論点を整理する価値があると思います。広く、「こういうことをやりたいけど法的問題ある?」と聞いてしまうと、無駄なリサーチが幅広く実施されてしまい、すごい費用になるというリスクがあります。そのため、特に確認すべき事項を、日本側で整理してあげると、現地弁護士のリソースを適切に振り分けることができ、結果として成果物の質を高めつつも、費用を削減することができます。

 

(2)質問力

質問力も重要です。「これってできる?」みたいなオープンクエスチョンだけだと、うまく海外弁護士から回答が引き出せない可能性があります。そのため、適宜前提条件やクライアントの意向を必要な範囲で共有したり、場合によってはクローズドな質問を活用することで、回答の方向を誘導し、海外弁護士からの回答が適切に得られることが期待できます。

また、海外の法令の知識がある程度ある場合には、内容についてもある程度確認することができ、回答の質を高めることに繋がります。

 

(3)信頼できる海外弁護士の紹介

次に、優秀な海外弁護士を見つけること、紹介することに価値があります。日本法の弁護士であっても、どういう人を選べばいいのか迷うことがあると思います。ましてや、海外の弁護士と交流したことがある人はかなりの少数だと思います。そのため、信用できる海外の弁護士を紹介できること自体に価値があると思います。一緒に仕事をしたことがあったりすれば、仕事のクオリティを高めるために、どういうコミュニケーションを取った方がよいかなども併せてアドバイスでき、より質を高めることに繋がると思います。

 

(4)複数国の統一的な対応

さらに、クロスボーダーといっても、対象国が複数の場合には、ただ各国の弁護士から回答を得るだけでは最終的な成果物とならない場合があります。例えば、各国の個人情報保護法を踏まえた、プライバシーポリシーを作る場合、ある程度共通事項を対応することが必要になります。

そのため、海外弁護士から回答を得るだけではなく、それらを統合する作業においては、各国の制度をある程度理解したクロスボーダーでの弁護士がやることに意味があります。

 

(5)現地弁護士の代替

そもそも海外の法制度について、ある程度知っているという場合もあるかもしれません。その場合には、海外弁護士に質問しないということも選択肢として考えられ、海外弁護士への支払いを削減でき、またスピーディーに回答できるというメリットがあります(どこまで責任をとって回答するのかというところは難しいところですね。。弁護士の責任回避という観点からは全部海外弁護士に質問するのがいいですが、クライアントがどこまでの情報を求めているのかによっては、海外弁護士に質問しないということも選択肢としてはあってもよいと思います。)。

 

(6)まとめ(日本の弁護士が必要な場面、不必要な場面)

以上のように、難易度の高い質問を行う場合などの質の高いアウトプットが必要となる場合や、複数国を対象とする場合には、日本法の弁護士に介在してもらうことがよいように思います。

あと、単純に英語力に問題がある場合なども、英語力の高い弁護士にお願いするのがいいと思います。

反対に、簡単な質問であって、現地弁護士が誰であっても一定程度のクオリティが保たれうるものである場合には、日本法の弁護士は介在させないことが、迅速かつ低コストになると思います。

 

3.クロスボーダー法務の特徴

クロスボーダー法務やりたいと思う人も多い気がするので、少しだけ、クロスボーダー法務の特徴(というかネガティブ面?)についても書いてみます。

特にアウトバウンドの場合、日本側が時間をかけてしまうと、さらに海外弁護士の検討時間が必要となるので、コミュニケーションはなるべくタイムリーに対応する必要があります(ちょっと追加で質問を受けたときに、時間がかかってしまうと、最終成果物提供も後ろ倒しになってしまいます)。なので、常に連絡が取れる状況を保つことが望ましいことになります。

また、時差の関係も考慮して動く必要があります(アメリカが入ると、なぜか日本が割を食らうことが多いようです。。)。あとは、祝日が日本とずれている場合があったりするので、そのあたりも加味してタイムラインを設定する必要があったりします(アジアだと旧正月があることは広く知られているように思いますが、そのタイミングは各国でちょっとズレていたりします。欧米はクリスマス以降はほとんど動かないみたいなところもあります。)。

 

4.今後のクロスボーダー法務

少し今後どうなっていくかみたいなところも考えてみたいと思います。

(1)まずは、翻訳技術が向上することは大きな影響がありそうです。ただ、現地法令が正確に訳されれるかや、訳は正しくても、もっと背後の知識が必要になるなどの部分はあるはずなので、最終的には人が確認しないといけないことは多いように思います。ただ、コスト削減には寄与するように思います。

 

(2)また、クロスボーダーの場合には、主な言語が英語となるため、日本人がどこまで対応するのかというところも今後変化が生じる可能性がありそうです。つまり、日本法であれば日本人弁護士の優位性はありますが、外国法となってしまうと、日本人VSアメリカ人みたいな戦いになるので、日本人がどこまで価値を提供できるかというところがあります。日本企業が世界展開に積極的であれば、日本企業の事がわかる日本弁護士がサポートすることは意味がありますが、そこまで積極的になれない状況の場合には、どうなるのかは色々と複雑になると思います。

加えて、インドとかの人件費が安いところで、簡単な英文契約書のドラフト・レビューをしてしまうということもあるようなので、そういう環境を整えた事務所とどう勝負するかがポイントになりそうです。(そういう海外弁護士を活用する場合、時差をうまく活用できるかが重要になりそうです。また、アメリカの場合には、人件費が安い州の弁護士を、NYの法律事務所が起用するということもあると聞いたことがあります。)